解禁

解禁日は如何でしたか。沢山釣れましたか。そうですか。良かったですね。
行っていないので昔話を少し。
当地では解禁日は有りませんでした。対象魚ではなかったのです。対象魚は鮎のみ。そのまた昔はアメゴもちゃんと釣れていて、漁業権云々は兎も角、それなりに認められていた魚でした。
しかし、薄情なもので、釣れなくなればその存在も無いとしました。僕が釣りを始めた時期がちょうどその頃で、良い面は人が少ない。悪い面は魚が少ない。その頃、先人に話しを聞けば必ず、昔は良かった。良く有る話しです。今や幻の魚だとさえ言われました。
釣り雑誌ではあちこちの川で釣れていたものですから、きっと当地でも釣れる見込みでしたから、その時は少し落ち込みました。しかし、天性の曲がったへそを持つ僕は、幻上等、相手にとって不足なし。甘かったですね。
情報を集めれば集める程、凄い魚を相手にしている気分になり、ますますテンションは高まります。しかし、そんな勢いはそうそういつまでも続きはしない、続く筈がない。誰もがそう思っていました。
そうなれば更にへその角度は大きくなりますから止める訳は無く延々と渓に通い続けました。そんな僕がアメゴ釣りの名人と呼ばれだしたのです。まだ一匹のアメゴも釣っていないのに。
つまり、こうです。奴があれほど渓に通うのはきっとそれなりの理由が有る筈。恐らくはあの道具。あれは大物狙いの道具。るあーと言う物。奴の狙いは尺上。魚を持って帰らないのは流石にまだ尺上は得ていないのだ。
尺上どころか未だに一匹のアメゴも釣っていない男が名人になっていました。本当の話しです。話しを合わせるのに苦労しました。
実はもうへその角度も人並みになり、いい加減で止めたくなっていたのですが、止められない状況でした。それにしても釣れない。そろそろ本物のアメゴが釣れてくれないともう誤魔化せない。そして待望の一匹が釣れました。
季節は春。つまり、僕は冬の間に通い続けたのです。なんと間抜けな。
優しいアメゴは痩せた、錆びの残った魚体でした。尺上ではなかったので持って帰る訳にはいかず、リリースでした。