経験者

帰宅してガレージを覗いて見れば車が無い。玄関の鍵も掛かっている。
誰も居ない。それまで堪えていた痛みが、どっと溢れてきた。
家に帰ればいつも灯りがあり、玄関を開ければ、おかえり。当たり前の様に思っていた。そうでは無かったのだ。
帰りを待つ時の不安。苛立ち。初めてだろうか。こんな気持ちは。
玄関の前に立ち尽くす。漸くガレージのシャッターが遠隔操作で開いた。帰ってきた。
ガレージの中に行き何か使える物をさがす。ニッパーとペンチ。無いよりはましだ。ガレージに車が入って来るのを待つ。入って来た。私は左手にニッパーとペンチを持ったまま言った。
これ、外して欲しい。
右の肩の後ろに張り付いたD-コンタクトを家内の方に向ける。
いきなり、引き剥がそうとする家内に着いて動く。
刺さったの。
くん、くん。
痛い。
うわあ、痛そう。
痛い。
漸く事の次第を理解して貰えた事に安心したのだが、簡単では無かった。
先ずトリプルフックの邪魔な二本をニッパーで切るのだが、非力で切れない。横で見ていた長女が。貸して。パチン。良いぞ。
やっと服が脱げ、全貌が露に。
貫通していない。3ミリ進むか5ミリ戻るか。買ったばかりなので返しが付いたままの針先を全員で見ていた。この位の返しなら大丈夫だと思う。引いてみて。兎に角、何とかしたい私は根拠無く、発言。
わかったあ。ぐい。抜けない。ぐいぐい。ダメダメ抜けない。
進むか。
うん。長女が何故か乗り気。
人の肉って案外硬いのよ。ぐいぐい。痛く無い。これだ。ぐいぐい。貫通。ちょっと短く切りすぎた様で、掴み辛い。
くっ。つるっ。えいっ。つるっ。やぁ。ずっ。出たあ。
ピアスより楽かも。
そうですか。