銀鱗

ぎらり。
合わせろ。どうした、はやく合わせろ。
駄目だ、完全に遅れた。逃げられた。あんなでかい奴、居たのか。
良いから、合わせろ。
くっ。駄目だ、動かない。根掛かりだ。ぐん。ぐん。根掛かりが動いた。違う、魚だ。良し、掛かった。
何が、良しだ。さっきまで、買ってもらったばかりのアイスを落っことした子どもみたいな顔をしてたくせに。
うるさい、黙ってろ。
ふん、ではお手並みを拝見させていただこうか。
でかい。これほどのアメゴは掛けた事がない。まさか、外道なのか。いや、そんな筈は無い。この川で、この場所で、この引き。間違い無い。アメゴだ。暴れてくれる。懸命に針を外そうとする動きがぐんぐんと伝わってくる。耐えなければ。糸は巻かない。動きが変わる時が来る筈。息を整えて待つ。
それにしても、でかい。尺とはまるで違う。捕れるのか。捕った事は、当然ない。来た。予想通りの動きだ。奴の狙いは流心の向こうに有る大きな岩の中。下って来る。合わせて下る。流心には行かせない。ドラグを4ノッチ締める。もつ。筈。流心に逃げようとする奴のせめて鼻先だけでも此方に向ける事が出来れば捕れる。良し、向いた。後は巻くだけだ。じいい。巻けない。下流に来て流れが緩くなり優位に立ったつもりだったのに優勢なのは奴の方だ。糸が出されて行く。流心の向こうに周り込まれる。その先には奴の棲みかが。捕れない。止められない。ドラグをもっと締めるしかない。かりっ。
慌てるなよ。竿を立てろ。そして良く見てみろ。奴も限界なんだ。浮いて来ているだろ。
確かに。スピードも落ちて来ている。でも、糸が出ていく。
だから慌てるなって。糸は出さなきゃ切られるから出しているのさ。
しかし、あそこに入られると御仕舞いだ。
だから、竿を立てろ。堪えるんだ。
じっ。糸が止まった。良いぞ、カーディナル。
ふん、何を今更。まあ良い。さあて相棒、巻こうか。
只今妄想中。釣れない。