カーディナルからの手紙

 漸く帰れる日がやって来たようです。
 想えば永く一緒に過してまいりました。その月日から比べれば離れていたこの数日など、ほんの一時でしょう。しかし、この数日間、私は身を切られる様な、そんな思いでした。
 始めはいつものめんてなんすだと思っていました。しかし、男の手により身体からめたるぶっしゅを抜き取られたときには流石に尋常ではないと、思った時にはもう遅く、せんばんと呼ばれる機械に身動き一つ出来ない様に固定され、目が回る程ぐるぐると回されました。
 私には痛いと言う感覚は無いのでしょう。散々回された後、妙に風通しが良くなったことに気づきました。貴方様から私を受け取ったこの男は尚も手を休めず私の身体の彼方此方を弄りまわし、勝手にぱあつは替えてしまうは、切ってしまうは、やりたい放題。そしてなにやら丸い物を取り出し、私の大切な所にことごとく挿入するのです。そんな物なら私にも元から備わっております。この首筋にちゃんと。この男はその私の唯一のべありんぐまでも取り替えてしまいました。口惜しい。そんな物いくらあっても同じ事だと。そう思いながらも妙に肩こりが。腰痛も。はて。まるでこの身に羽根が生えたかの様でした。この男を少し見直しました。
 
 しかし、この男も最後は難儀している様子でした。四日目からは私の事など眼中に無いかの如く黒くて硬い物を弄るばかり。どうやらそれは私の手。貴方様の手と結ぶ私の手の様でした。何日目かにそれは仕上がったかに思われました。しかし男は渋い顔で虫を一匹取り除くとまた、擦り始めました。
 流石にこの頃になると私も退屈でした。このまま貴方様の元へ参りたい。しかし、手も結べないのでは仕方有りません。はんどるのぶの完成を待つしかないのです。
 退屈な日々が過ぎていきました。外から聞こえる虫の音が寂しくこの身に沁みます。今年の漁期もあと僅か。男も十分心得ている様でした。それでも、いそいそと川へ出掛けて行くのは何故でしょう。待つしか出来ないこの私を放って置いて自分だけ川へ。口惜しい。
 今日は曇り空で所謂、好期ですから、てっきりまた川へ行くのだと思っておりました。ところが、男は何日ぶりかに私を箱から取り出し、例のはんどるのぶを取り付けたのです。すっかり忘れておりました。
 黒くて硬いものが、不思議です。柔らかな感触なのです。何か暖かみさえ感じます。気のせいでしょうか。
 ともかく、漸く帰れる日がやって来たようです。
 男は珍しく柔らかな顔で、これもまた柔らかな真っ白いうえすと呼ぶには上等の布で私の身体の汚れを、それは丁寧に拭きあげました。そして、うえすに包んだまま二度はんどるを回し、何か呟いた様でしたがそれは聞き取れませんでした。
 今、箱が閉じられようとしています。もうすぐ貴方様の元へ参ります。また、あの渓へ連れて行って下さいね。
                          カーディナル